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前ページ次ページアウターゾーンZERO 皆さん、こんにちは。私の名前はミザリィ。アウターゾーンのストーカー(案内人)です。 今日ご紹介するのは、アウターゾーンの一つ、ハルケギニアで起きた出来事です。 公爵家の娘、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 彼女はメイジ、いわゆる魔法使いでありながら、魔法が使えないというコンプレックスを抱いていました。 召喚の儀式で、何度も失敗を繰り返した末、やっと召喚できたのは見知らぬ少年。 しかも、魔法が使えない『平民』。彼女は愕然としました。 一方、日本から突然召喚された高校生の少年、平賀才人は訳がわからないまま使い魔にさせられてしまいました。 ルイズに仕えろと言われても、納得できるわけがありません。 当然、主人と名乗る少女、ルイズに反発します。 そして……召喚の日の夜更けのことです……。 学院の寮。 ルイズの部屋から喚き合う声が聞こえてくる。 「あんたは使い魔なんだから、黙って言うことを聞いていればいいのよ!」 「だからって殴ることはないじゃないか! さっきからおとなしくしてれば、いいかげんにしろよ!」 「平民のくせに……貴族に逆らう気!?」 「平民も貴族も同じ人間だろ、どうして殴るんだ。まず口で言えばいいだろ」 「教えてあげましょうか……バカ犬のあんたには言っても無駄だからよ!!」 「うわっ!!」 振るわれた鞭を避けようとして、才人は後ろに転倒した。 壁に頭がぶつかった。 鈍い音がした。 崩れ落ちるように才人は倒れた。 「サイト、どうしたのよ?」 しかし、才人から返事はない。 「サイト……!?」 首を掴んでこちらを向かせると、才人の目は大きく見開かれている。 「……じょ、冗談でしょ!? ねえ、起きてよ、起きてったら!!」 ルイズは必死に才人の頬を張ったが、反応はない。 「死んでる……」 才人の首が、ガクリと下を向いた。 結局、この一件は才人に乱暴されそうになったための正当防衛だった、ということで決着した。 召喚そのものは成功しているので、進級は認められることになったが、使い魔を死なせてしまったので、新しい使い魔を召喚しなくてはならない。 召喚のやり直しをする日が決定するまで授業を休ませる、いわば謹慎処分をルイズは言い渡された。 「フン! だから平民の男ってのは軟弱で嫌いなのよ! おかげでえらい迷惑だわ」 ルイズは反省するでもなく、寮の部屋でふて腐れてワインを飲んでいた。 周囲の目は好意的ではない。 生徒や使用人たちがヒソヒソと、人殺し、使い魔殺しと聞こえよがしにささやいている。 気にしないようにはしていたが、やはり言葉が言葉だけに、耳につく。 「そりゃあ、やり過ぎはあったかも知れないけど……」 その時だった。 [ごめん下さい] ノックの音に続いて、ドアの向こうから声がした。 「誰よ!!」 [ちょっとお話したいことがありまして] ルイズが渋々ながらドアを開けると、そこには見知らぬ女性が立っていた。 「な、何なのよあんた」 つり目にウェーブのかかった長い髪。軍の士官服に身を包んだ、豊満なスタイル。 その妖艶な美しさは、キュルケがかわいく見えるほどだ。 [あなたがルイズさんですね?] 「そうよ、だから何!? 私のことを捕まえに来たの!? もう決着がついたはずでしょ!?」 ルイズは喚く。 [いいえ、そうではありません。私はミザリィと申します。トリステイン総合学院の教務をしている者です。あなたを当学院の生徒として招きたいのです] 「トリステイン……総合学院!?」 [あなたを非難する人も多数いますが、あなたの頭脳は素晴らしい。学業成績では常にトップとのことですね。あなたにぜひ来てほしいという学院があるのです] 「私に? 使い魔を殺したこの私に?」 [そうです、当学院は魔法より学業に重きを置いておりまして、あなたのような生徒を求めているのです。興味があればこちらへどうぞ、勉強熱心なあなたにはぴったりの学校ですわ……] ミザリィはルイズに学院の地図を手渡すと、不気味な笑みを浮かべた。 [よろしければ明日にもどうぞ。いついらっしゃってもいいように、手はずは整えております] ミザリィは帰っていった。 「何なのかしら……でも、魔法より学業に重きを置くって……」 そんな学院のことは聞いたこともない。新しくできた学院なのだろうか。 だが、もしかしたら、魔法が使えないことで誰にもバカにされなくなるチャンスかも知れない。 ルイズの好奇心は膨らんでいった。 翌日。 謹慎を破って寮を抜け出し、ルイズは地図に示されたトリステイン総合学院へとやってきた。 「はあ、やっと着いた……」 朝から歩き続けて、もうそろそろ昼になるところだ。 周囲は山奥で、きつい坂道を歩くのは疲れる。 「これが学院……?」 学院を囲む塀は高く、門は固く閉ざされており、監獄のようだ。 門の脇に立っていた門番に要件を告げた。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。ご紹介を受けて参りました」 「そうですか。お待ちしておりました、どうぞ」 ゆっくりと門が開いていく。 ルイズは早足で門をくぐった。 [お察しの通り、彼女は今、アウターゾーンのゲートをくぐり抜けました……さて、彼女はアウターゾーンから無事帰ってこれるでしょうか?] 前ページ次ページアウターゾーンZERO
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俺の名前は平賀才人。ルイズの『二人目』の使い魔だ。 元々俺は地球の日本にいたのだが何の因果かハルケギニアっていう場所に呼び出されちまった。 召喚されたときはそりゃ泣いたりしたが『住めば都』っていう言葉通り結構環境が良かった。 ご主人様であるルイズは以前までは結構厳しい性格だったらしいが。 『最初に召喚した使い魔』のおかげでその性格を改善したらしい。恩に着るよ。 俺がルイズに怒ったことは、初めてルイズの部屋に入った時にドアを開けたら本の山が俺に襲いかかってきたことだ。 そのとき俺は本の中に埋まって危うく死にかけるところだった。 部屋の中も凄まじく、ところせましに本の塔が建てられていた。 俺はルイズに少しは片づけたらどうだって言ったらルイズは返事をしただけで以来ちっとも片づけようともしない。 しょうがなく使い魔として掃除しようとしたら乗馬用の鞭で叩かれちまった。痛かったぜ…。 そんなあくる日のこと、ルイズのいない部屋でのんびりしていたらふとある物が目に入った。 それは『帽子』だった。よく魔法使いが被る黒い帽子、それがベッドの横に置いてある。 俺は何故かそれが気になったので帽子を手に取ってみると帽子の下に日記が置いてあった。 タイトルが書かれてあったがこの国の言葉はまだわからなかったら何なのかさっぱりだった。 俺は気になったのでページを開いてみると…そこには懐かしい日本語が書かれていた。 俺はプライバシーに関わりそうな事を理解して、日記を読む事にした。 ○月○日 (これは私が元いた世界の日にちだが) 私を召喚したルイズって奴から日記を借りた。 こんなに珍しい事は無い、珍しい事があったら日記に書き取っておこう。 しかしルイズから聞いた話だけだがこの世界には珍しい物がたくさんありそうでワクワクするぜ。 ▽月⊿日 今日ルイズやキュルケ達と一緒に『土くれ』のフーケとか言う奴を退治しにいった。 そいつはでかいゴーレムを作って襲いかかって来たが私の『マスタースパーク』であっという間に倒してやったぜ。 その後にノコノコと出てきたフーケの正体はなんと学院長の秘書だった。あの時は驚いたぜ。 『破壊の杖』は手に入れたかったが学院長が断固として断ったため代わりに『遠見の鏡』をもらった。 ★月★日 アルビオンから久方ぶりに帰ってきた。 まさかあのワルドって野郎が敵だったとは知らなかった。まぁすぐに倒してやったけど。 後帰るついでにアルビオンの宝物庫からいろいろと拝借してきたぜ。 でもそのせいでお姫様の愛人をむざむざ見殺しにしてしまった。 あの時気づいていれば助けられたのに…本当に情けないぜ。 ☆月☆日 やっと元の世界に帰れる方法を見つけた。 ルイズはそれを聞いて帰らせまいと私にしがみついたが仕方なく自作の眠り粉をかがせた。 この日記は置いておこう、短い間だったがルイズは私のことを本当の親子か何かのように慕ってくれた。 だから私がここにいたことをここに残しておくぜ。後、名残惜しいが良く喋る剣も残しておこう。 本当ならすぐにでも帰りたいがなんかこの国にレコン・キスタとかいう連中が近づいているらしい。 どうせ最後だ、この霧雨魔理沙がハルケギニアにいたことを記録に刻んでやるぜ。 追伸、恐らく次に召喚される奴。人間で日本語が分かる奴に伝えておく。 私の代わりにルイズの世話を見てくれ。 『タルブ会戦』の折、箒に跨りたった一人でレコンキスタの旗艦『レキンシントン』号を沈めたうえに竜騎兵を全滅させたメイジがいた。 その者の名は……キリサメマリサ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、霧雨魔理沙。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2462.html
俺の名前は平賀才人。ルイズの『二人目』の使い魔だ。 元々俺は地球の日本にいたのだが何の因果かハルケギニアっていう場所に呼び出されちまった。 召喚されたときはそりゃ泣いたりしたが『住めば都』っていう言葉通り結構環境が良かった。 ご主人様であるルイズは以前までは結構厳しい性格だったらしいが。 『最初に召喚した使い魔』のおかげでその性格を改善したらしい。恩に着るよ。 俺がルイズに怒ったことは、初めてルイズの部屋に入った時にドアを開けたら本の山が俺に襲いかかってきたことだ。 そのとき俺は本の中に埋まって危うく死にかけるところだった。 部屋の中も凄まじく、ところせましに本の塔が建てられていた。 俺はルイズに少しは片づけたらどうだって言ったらルイズは返事をしただけで以来ちっとも片づけようともしない。 しょうがなく使い魔として掃除しようとしたら乗馬用の鞭で叩かれちまった。痛かったぜ…。 そんなあくる日のこと、ルイズのいない部屋でのんびりしていたらふとある物が目に入った。 それは『帽子』だった。よく魔法使いが被る黒い帽子、それがベッドの横に置いてある。 俺は何故かそれが気になったので帽子を手に取ってみると帽子の下に日記が置いてあった。 タイトルが書かれてあったがこの国の言葉はまだわからなかったら何なのかさっぱりだった。 俺は気になったのでページを開いてみると…そこには懐かしい日本語が書かれていた。 俺はプライバシーに関わりそうな事を理解して、日記を読む事にした。 ○月○日 (これは私が元いた世界の日にちだが) 私を召喚したルイズって奴から日記を借りた。 こんなに珍しい事は無い、珍しい事があったら日記に書き取っておこう。 しかしルイズから聞いた話だけだがこの世界には珍しい物がたくさんありそうでワクワクするぜ。 ▽月⊿日 今日ルイズやキュルケ達と一緒に『土くれ』のフーケとか言う奴を退治しにいった。 そいつはでかいゴーレムを作って襲いかかって来たが私の『マスタースパーク』であっという間に倒してやったぜ。 その後にノコノコと出てきたフーケの正体はなんと学院長の秘書だった。あの時は驚いたぜ。 『破壊の杖』は手に入れたかったが学院長が断固として断ったため代わりに『遠見の鏡』をもらった。 ★月★日 アルビオンから久方ぶりに帰ってきた。 まさかあのワルドって野郎が敵だったとは知らなかった。まぁすぐに倒してやったけど。 後帰るついでにアルビオンの宝物庫からいろいろと拝借してきたぜ。 でもそのせいでお姫様の愛人をむざむざ見殺しにしてしまった。 あの時気づいていれば助けられたのに…本当に情けないぜ。 ☆月☆日 やっと元の世界に帰れる方法を見つけた。 ルイズはそれを聞いて帰らせまいと私にしがみついたが仕方なく自作の眠り粉をかがせた。 この日記は置いておこう、短い間だったがルイズは私のことを本当の親子か何かのように慕ってくれた。 だから私がここにいたことをここに残しておくぜ。後、名残惜しいが良く喋る剣も残しておこう。 本当ならすぐにでも帰りたいがなんかこの国にレコン・キスタとかいう連中が近づいているらしい。 どうせ最後だ、この霧雨魔理沙がハルケギニアにいたことを記録に刻んでやるぜ。 追伸、恐らく次に召喚される奴。人間で日本語が分かる奴に伝えておく。 私の代わりにルイズの世話を見てくれ。 『タルブ会戦』の折、箒に跨りたった一人でレコンキスタの旗艦『レキンシントン』号を沈めたうえに竜騎兵を全滅させたメイジがいた。 その者の名は……キリサメマリサ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、霧雨魔理沙。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2431.html
コルベールが中庭で戦っている頃、食堂でも戦いが繰り広げられていた。 不覚にも銃士達は、斬りつけても怯まない、突き刺しても死なない、得体の知れぬメイジを相手にして、混乱の一歩手前だった。 ゾンビを相手したことなど、あるはずが無いのだ、仕方がないのかもしれない。 既に二人の銃士が、ゾンビメイジの捨て身の攻撃で銃士がやられ、床に倒れている。 腹や手足に受けた傷からは、血が流れ続けている…このままでは死んでしまう。 「おああああッ!」 アニエスは、渾身の力を込めて、ゾンビメイジの腕を切り払った。 が、相手も手練らしく、『ブレイド』の魔法を纏った杖でいなされてしまう。 手強い…!アニエスがそう思った瞬間、頭上から六人がけのテーブルが落下してきた。オスマンが投げ落としたのだ。 メイジは咄嗟にそれを避けたが、床が濡れていたために足を滑らせ、一瞬の隙が出来た。 「うおおおあああっ!!」 アニエスは渾身の力を込めて切り払い、メイジの杖をはじき飛ばした、そのまま腰溜めに剣を構え、心臓目がけて突き立てる。 「くっ!」 ドコッ!と鈍い音を立てて、メイジの体を剣が貫く。剣は胸板を貫き骨ごと心臓を貫いた、しかし、剣が抜けない。 そこにもう一人のメイジが、アニエスに向けてマジックアローを放った。 アニエスは剣を捨て、後ろに転がってマジックアローをかわしていく、一発目、二発目、三発目……このままでは回避しきれない。 タバサにもそれを防ぐ手段は無かった、もう一人のメイジは、タバサの魔法で全身を貫かれ、首を半分まで切り裂いたというのに、傷口が瞬く間に塞がってしまう。 この場にキュルケが居てくれれば…! タバサはそう考えて、すぐにそれを否定した。 今まで、ずっと困難な任務を受け続けてたタバサは、他人に頼ることを良しとしない。 巻き添えを作らないために、迷惑をかけないために、タバサは一人で戦い続けてきた。 けが人であるキュルケの復帰を期待するなど、あってはならないことだ…そう思い直して奥歯を強く噛みしめた。 「ラグー・ウォータル…!」 タバサは、氷の壁でメイジの動きを封じるべく、詠唱を開始する。 しかし途中で、空気が異常に乾いていることに気が付く。 原因は、氷の矢の使いすぎだった、空気中の水蒸気を使いすぎてしまったのだ、床に零れた水や氷では、すぐに魔法に利用することはできない。 このままでは相手の動きを封じるどころか、必殺の『ウインディ・アイシクル』も使えない。 六回目! アニエスがテーブルを盾にして、六発目の『マジック・アロー』をやり過ごした頃、胸から剣を生やしたメイジが、落ちた杖を手にしていた。 メイジがアニエスに杖を向け、詠唱を開始する…アニエスは鳥肌を立てた、回避しきれない。 「あ」 奇妙な光景だ…アニエスは頭のどこかでそう考えていた。 メイジの放ったマジック・アローが、ヤケに緩慢な動きで自分へと飛んでくるのだ。 マジック・アローだけでなく、自分の体さえもゆっくりと動いている。 避け、られない。 ジュバッ!と音を立てて、マジック・アローが炎に包まれる。 炎の弾が、アニエスに届くはずだったマジック・アローを消滅させたのだ。 矢次に飛ばされる火の玉は、杖を構えていたメイジの腕に当たり腕を焼き尽くす、すると腕がぼろりと崩れ落ち、剣状の杖が床に落ちた。 「グア…」 見ると、キュルケが杖を構えて、食堂の入り口に立っていた。 キュルケはタバサと相対していたメイジにも炎の弾を飛ばし、タバサを後ろに下がらせる。 「遅れてご免なさい」 そう言って、キュルケがタバサの肩に手を乗せる。 「怪我は」とタバサが聞くと、キュルケはウインクをして答えた。 「私は平気よ、シエスタとモンモランシーが怪我人を治して、すぐにこっちに来るわ。…さっきは情けないところを見せたけど、この”微熱”だって負けていられないのよ」 キュルケはタバサの前に出ると、メイジに向けて杖を向ける。 燃えさかる炎の中で、そのメイジは、にやりと笑みを見せた。 「来なさい、化け物」 ◆◆◆◆◆◆ 「んんぅーっ!」 連れ去られた生徒が、傭兵メイジの腕の中でもがく、口には即席の猿ぐつわを噛まされていて声が出せない。 「くそガキ!じたばたするな!この高さから落ちたい訳じゃあないだろう」 生徒は、自分を抱えているメイジにそう忠告され、下を見た。 メンヌヴィルに先に脱出しろと指示された二人のメイジは、『フライ』を詠唱して空を飛んでいる、下は草原だが30メイル以上の高さがあった。 生徒は息をのみ、黙った。 「ジョヴァンニ、船はまだ見えないのか」 生徒を抱えていたメイジ…ギースがそう呟くと、ジョヴァンニと呼ばれた男は、林の奥を指さした。 「見えたぞギース、あれだ」 林の奥には、黒塗りのフリゲート艦が碇を降ろし、超低空で停泊していた。 ハルケギニアでは、フリゲートという呼称は小型高速の軍艦に用いられるのだが、この船は余計な装備を廃した特別製のもので、軍艦としては格別に小さい。 『ライン』以上のメイジであれば十分に浮かせることが出来る…という訳で、もっぱら特殊条件下での人員高速輸送に使われていた。 本塔を占拠した時、傭兵メイジが出した合図は、フリゲート艦を魔法学院に近い林の中へ下ろす合図だった。 十人ほど人質を取り、船で逃げる手はずだったが、手痛い反撃に遭い生徒を一人抱えるのがやっとだった。 しかし、今回の仕事は『誘拐』ではないので、人質をいつまでも連れて逃げるわけではない、彼らの目的は別にあったのだ。 二人は船に乗り込むと、中で待機しているはずのメイジを探した。 この船で帰還することはできない、せいぜい目立つところを飛んで貰って、トリステインの哨戒の目を引きつけて貰うしかない…。 「おい!船を出せ!仕事は果たしたぞ!注文通り『トリステインの逆鱗に触れてやった』ぞ!」 ジョヴァンニが叫びながら、船室の扉を開けていく、だがメイジの姿は見えない。 貨物室に入って中を見渡す…しかし、誰も居ない。 「おい!何処へ行った!…くそ、なんてこった、あの気味の悪いヤロウ、逃げやがったか」 そう悪態を付くと、ギースが人質を抱えて中に入ってくる。 抱えていた人質を貨物室へ放り込むと、その足に杖を向け短くルーンを唱える、鉄の足かせを『練金』したのだ。 「よし…恨むなよ嬢ちゃん」 「んむーーっ!」 生徒は、身をよじらせて何とか動こうとするが、足かせが重くて自由に動けない、その上腕までも封じられていては、為す術が無かった。 「おい、どうするんだ」 事を見守っていたもうジョヴァンニが、焦りを隠さずに聞く。 「予備に風石があったはずだ、そいつで船を浮かせる。どうせ二時間しか浮けないだろうが十分だ、風任せで動けば囮にはなる」 「このガキはどうする」 「風石が尽きれば、船ごと落ちて死ぬだろうが、万が一救出されたら厄介だ…そうだ、船室を燃やしておけばいい、二時間ばかりこの船が囮にないいんだからな」 「よし、それでいこう」ジョヴァンニが頷いた。 ギースは、貨物室から外に出ると、後部甲板下の船室に入った。 ランプを二つ手に取ると、床に投げ捨てる。 二つのランプはガラス片と油を飛び散らせて散らばった。 杖を振り、油に『着火』すると、燃焼時間を調節するため扉を閉じる。 すぐさま甲板に戻り、ジョヴァンニの姿を探す…甲板には居ない。 碇を上げる余裕はない。碇の根本にあるフックを魔法で外すと、ジャラジャラジャラと鎖が落ちる音が聞こえ、がくんと船が揺れた。 船は静かに上昇を始める…… 「ジョヴァンニ!行くぞ!」 船が浮き始めれば、あとは逃げるだけだ。ギースは姿の見えぬ よく見ると、人質を閉じこめた船室が開いていた。 「あいつめ…また悪い癖か」 ジョヴァンニという男は、メンヌヴィル率いる傭兵団の中でも古株だが、悪い癖を持っている。 メンヌヴィルが人間の…いや、生き物の焼ける臭いが好きでたまらないように、ジョヴァンニは女を陵辱したくてたまらぬといった口だ。 一刻も早く逃げなければならないのに、こんな時まで悪い癖が出たのか…そう考えてギースは声を荒げた。 「おい!ジョヴァンニ、早くしろ」 船室の中では、ジョヴァンニが人質の上着を引きちぎっていた。生徒は胸を露出させ、恐怖のあまり震えている。 「まあ待てよ、男を知らないうちに死ぬなんて可哀想じゃないか」 そう言って下卑た笑みを見せる、が、そんなことをしている余裕は無い。 「時間はない。先に行くぞ」 「…ちっ。まあいいさ。餞別に膜だけは破ってやるよ」 ジョヴァンニは、太さ2サント長さ30サントほどの、鉄で出来た杖を持っている。 それを生徒の眼前にちらつかせ、パジャマのズボンに手を伸ばした。 「んむっ!んむううー!」 自由を奪われた体でありながら、必死で逃げようとする生徒。 それを見てジョヴァンニは舌なめずりをした。 「反吐が出るわ」 と、突然、どこからか女の声が聞こえた。 ジョヴァンニは咄嗟に、誰だ!と叫んだが、その声は床がぶち破れる音でかき消された。 床を破ったのは、銀色に輝く二本の剣であった、それは一瞬で円を描き、床に穴を開けた。 と次の瞬間には糸のようにバラけ、ジョヴァンニの足を掴む。 「うわ、うわああ!」ギースが叫んだ。 奈落の底、と表現すべきだろうか。直径わずか20サントの穴に、ジョヴァンニの体が引きずり込まれていく。 ベキベキベキと不快な音を立てて…それは床板の音か骨の音か、どう考えても後者しか思いつかなかった。 ほんの数秒で、ジョヴァンニの体は消えてしまった。 当たりに飛び散る血飛沫を残して。 「………」 人質となっていた生徒は、その異常な光景に驚く暇もなかった、何が起こったのかを理解することが出来ず気絶したのだ。 「う、うわ、わあああああああああああああああああッ!?」 今度は、ジョヴァンニが叫ぶ番だった、そして、なりふり構わずに逃げた。 一歩、二歩、三…! 三歩目を踏み出したとき、左足の動きが止まった…いや、留められた。 振り向くと、銀色の糸が何本もブーツに絡みつき、まるで大蛇のような力で足を締め付けていた。 「うわっ!ああ、ああわああああ!」 慌てながらも、何とか『ブレイド』を詠唱し杖を刃にした。糸を切断しようと足掻くが、糸は鋼のように硬い上、切っても切っても再生し、足へと絡みつく。 そうこうしているうちに糸は太く絡まり、荒縄のように…そして蛇のように足を登ろうとした。 「ちくしょおおおおっ!」 ギースは雄叫びを上げて、自分の足を切断した。 千分の一秒だけ躊躇したが、それ以上はジョヴァンニと同じ最期を辿ることになる、決断は早かった。 すぐさま、『フライ』を詠唱しようと、したが、糸はもう片方の足へと絡みついていた、中を浮いた体が、ぐいぐいと船室へと引きずり込まれようとしている。 「嫌だ!嫌だ!助けて!助けて!」 「往生際が悪いわよ」 船室の中に引きずり込まれると…そこには、暗くて良くわからないが、女の形をした『何か』が居た。 その『何か』は、背中に長剣を背負い、腕から銀色の糸を生やしていた。 着ている服は血に塗れ、所々を切り裂かれたローブは、もはや服としての機能を成していない。 「ひっ…」 「聞きたいことがあるわ…貴方の依頼主についてね」 「ひっ、ひっ、ひ…」 ギースの頭が急速に冷めていく。 目の前の『何か』は、化け物のような力を持っていても、見た目は『女』だった。 こいつは女だ!どんな化け物であっても、女に違いない!そう自分に言い聞かせて、気を落ち着かせる。 「な、なななななんでもしゃしゃしゃ喋る、だかかかから助けてててててくへ!」 「そう、じゃあ場所を移しましょう?ここじゃあ目立つわ…」 ギースは、必死で声を震わせた、恐怖で震わせるのではなく、詠唱を誤魔化すために声を震わせた。 「(ウル)わわわか(カーノ)った!(ジエー…)ひ、は、おれは(……)」 ぴくりと女の眉が上がる、詠唱に気づかれた?だが俺の方が早い! 「うおおおおおっ!」 杖の先端から、ありったけの精神力を込めた炎が迸る。 炎は、自分の足をも焦がしてしまうだろうが、そんなことはどうでもいい。 とにかく今は逃げるために、生き延びるために、こいつを焼き殺さなければならない。 「うおああああああ!」 叫んだ、そして、力を振り絞った。 だが、その悪あがきは、女が背負っていた長剣によって切り裂かれた。 ごぉうという風の巻き上がる音を立てて、炎が消える。 女は長剣を…片刃の長剣を、ギースの顔に突きつけていた。 「…ひどい炎ね、人質も一緒に焼く気?」 その言葉と共に、剣が首へと差し込まれ…ギースの首は胴体と永遠の別れを告げた。 女は…、いや、ルイズはデルフリンガーを手にしたまま、人質となっていた生徒を抱きかかえる。 そして甲板の縁に立ち、高さを知るために下を見下ろした。 「まずいわね、私、レビテーションも使えないのに…」 すでに高度は百メイルに近い、自分が飛び降りる分には問題ないが、生徒を無事に下ろすことはできない。 ルイズは、後ろめたさからデルフリンガーに話しかけるのを躊躇ったが、生徒の命を助けるためには仕方ないと自分に言い聞かせ、静かに話しかけた。 「…デルフ。私の杖は確か『風のタクト』って言うんでしょう?これを使えば平民でも空を飛べるって言ったわよね、使い方を知らない?」 デルフリンガーは拍子抜けするほどいつもの調子で、かちゃかちゃと鍔を鳴らして答える。 『あー、どうっだったかなー。えーと…そうそう、イミテーションの宝石を回すんだ』 「イミテーション?……ああ、これ」 ルイズはデルフリンガーを口にくわえ、杖のグリップに埋め込まれている宝石を回した。 すると体が軽くなり、ふわり…と浮き始める。 ルイズは宝石を元に戻すと、甲板から地面に向かって飛び降りた。 空中で一度、二度と杖の中に仕込まれている『風石』を発動させ、落下速度を殺していく。 数秒後、どすん、と音を立てて地面に着地した。 衝撃はそれほど強くない…人質となっていた生徒も大丈夫だろう。 ルイズは生徒を適当なところに寝かせ、足かせを引きちぎった。 ちらりと脇を見ると……フリゲート艦で待機していたゾンビメイジの『残骸』が目に入る。 アンドバリの指輪の力でも再生できぬよう、三十六分割されたそれは、文字通りの残骸であった。 目が覚めたときこれを見つけたら、また気絶してしまうだろう…そう考えて、ルイズはクスッと笑みを漏らした。 「!…近づいてくるわね」 遠くから聞こえてきた音に、ルイズは敏感に反応する。 耳を地面に当てると、馬の蹄の音と、人の足音が聞こえてくる…間もなくこの生徒も発見されるだろう。 ルイズはデルフリンガーを鞘に収めると、木々の間をすり抜けて、その場から離れていった。 ◆◆◆◆◆◆ 「厄介ね!」 キュルケはそう叫びながら、宙に浮いた炎の弾を操り、ゾンビメイジの『マジック・アロー』を相殺していく。 シエスタから『波紋』を注ぎ込まれたキュルケは、一時的に精神が研ぎ澄まされているが、それでもコルベールの技を真似することは出来なかった。 コルベールが巨大な蛇状の炎を操るのに比べ、キュルケは直径50サント程の火球を一個操るのがやっと。 アニエスと戦っていたメイジが、炎で焼かれた腕を再生できないことから、ゾンビの弱点が炎であることは理解できた。 水系統の力で動いている以上、水分が必要だと証明されたのだが、それはかえってアンドバリの指輪が持つ人知を超えた力を見せつけているようでもあった。 「ほんとに!厄介、ねっ!」 キュルケの相手は、風系統の高位のメイジらしい、風の障壁を貼りつつ『マジック・アロー』を飛ばしてくるのだ。 キュルケの炎では障壁を越えにくい、超えたとしても、多少の炎ではゾンビを行動不能にできない。 タバサは、オールド・オスマンを連れて待避している。 オスマンの波紋は、リサリサの直系であるシエスタに比べて、はるかに弱い。 メイジの足止めをしたのが一回、ロフトの教師用テーブルを投げ落とす際に肉体を強化したのが二回……それだけでオスマンの呼吸は乱れ始めていた。 そのため、タバサに頼んでオスマンと怪我人を下がらせたのだが…アニエスとキュルケだけでゾンビを相手するのは辛い。 キュルケが攻めあぐねている時、アニエスは激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。 ゾンビは杖を燃やされたので、胸に突き刺さっている剣を引き抜いて使っている。 …アニエスの旗色が悪い。 「く!……なんて馬鹿力だっ」 吸血鬼ほどデタラメではないが、ゾンビは人間が備えているリミッターの外れた状態で戦っている。如何に歴戦のアニエスでも限界がある。 「アニエスさん!」 と、背後から誰かが叫んだ。 アニエスはその声が誰なのか解らなかった、ゾンビの剣に絡まったツタを見て…そしてツタに流れる『ライトニング・クラウド』のような閃光を見て、それが『魔法とは違う何か』だと直感的に理解した。 「山 吹 色 の 波 紋 疾 走 !」 シエスタが放った波紋は、剣を握る手に麻痺を起こさせた、その隙にアニエスがゾンビの体を蹴って距離を取る。 ゾンビは、剣を落とし…ふらり、ふらりとした足で少しずつ後ろに下がっていった。 「アニエスさん、大丈夫ですか!」 「礼は言う!だが非戦闘員は下がっていろ!」 「そういうわけには行きません!」 シエスタは半身に構えて両腕を前に出し、腕に絡めたツタを垂らす。 アニエスは何か言おうとしたが…そんな余裕がないと気付き、無言で剣を構えなおした。 だが、ゾンビは襲いかかってくる気配もない。 それどころか、自分の手を見て、周囲を見渡して……まるで迷子の子供のような顔をしてあたりを見回している。 「…様子が変だ」 アニエスが呟いた、その時。 「う、うおおおおおおっ!」 ゾンビが、キュルケが相手しているゾンビに向かって体当たりをした。 ごろん、と床に倒れ込むと、もがくゾンビを取り押さえて、叫ぶ。 「燃やせーっ!早く!俺ごと、やれーっ!」 キュルケはその言葉に、一瞬だけ躊躇いを見せた。 だが、それは本塔に一瞬のこと…杖を二人のゾンビに向かって振り下ろす。 ごうごうと音を立てて二人のゾンビが燃えていく、あたりに焦げ臭い、人間の焼ける嫌な臭いが立ちこめていく……しかし、誰もその場から離れようとしなかった。 皆、じっと燃えていく様子を見つめていた。 しばらくすると、炎が消えて、黒こげになったゾンビ二体が床に残る。 「…………」 もう、どちらがどっちなのか判別できないが、片方のゾンビが声にならぬ声を呟いていた。 皆、自然と耳を澄まし、その言葉を聞いた。 「と りす て いん の とも よ しょう き に も どし て くれた あ り が と……」 その言葉を聞いて…キュルケとは、床に膝をついた。 アニエスは祈るように両手を重ね、握りしめる。 シエスタは、水の精霊に会い、リサリサの記憶の一部を受け継いだことを思い出していた。 曖昧な記憶なので、はっきりと思い出すことは出来なかったが、正気を取り戻したゾンビを見て、ある一つの記憶が鮮明になった。 曰く『波紋は精霊に干渉できる』 ◆◆◆◆◆◆ 人質となっていた少女が衛兵に発見され、魔法学院に運ばれたのを確認してから、ルイズはトリスタニアへと足を向けた。 兵士達の会話の中から、魔法学院に潜んでいた賊が殲滅されたことを知ったので、もはや自分の用は無いと判断したのだ。 ルイズは、いつものように街道を避け、街道沿いの林の中を歩いていた。 「ねえ、デルフ」 『ん?』 デルフがいつものように背中から返事をする。その声はいつもと変わらなくて…変わらなすぎて、かえってルイズを不安にさせた。 「あなた、心を読めるんでしょう」 『前にも言ったけど、多少ならなあ』 「私の心、読んだ?」 『………あー、もしかして、見ず知らずの親子を殺したのを気にしてるのか?』 ルイズが、足を止めた。 背中の鞘からデルフリンガーを引き抜き、銀色に輝く刀身を見つめる。 「…軽蔑した?」 『いんや、別に』 驚くほど軽く、デルフリンガーが呟く。 それでは納得できないのか、ルイズはその場に座り込んで、足下にデルフリンガーを突き刺した。 「どうしてよ、だって、貴方は、武器屋で見つけたとき、私をずいぶん嫌ってたじゃない」 『いや、そうだけどさあ……』 デルフリンガーは言いにくそうに、鍔をカチャカチャと数度鳴らして…ぽつぽつと語り出した。 『俺っちは剣だ。悪いものばかりじゃなくて、いろんな奴に使われて人間も沢山切ってきた。おれは誰に使われるかを選べねー。 でもよう、嬢ちゃんはずっと後悔しっぱなしじゃねーか。俺っちは元から剣として生まれたから、自分じゃ戦うのは嫌だなーと思ってるけど、人を切るのに抵抗もないんだわ。 嬢ちゃんはずっと我慢してるじゃねーか。できるだけ相手を選んで殺してるし、希に我慢できなくなるのも仕方ねーと思うよ。 それに俺、嬢ちゃんはもっと食欲に流されると思ってたんだぜ。でも人間を襲わないようにすげー努力してるのは解る。 親子のことは可愛そうだと思うけどよ、貴族の横暴で似たような死に方してるヤツなんて、数え切れないほど見てきたぜ。 俺はよ、後悔し続けるそんな嬢ちゃんを嫌いになれねえ』 ほんの数分、沈黙が流れた。 ルイズは、そっとデルフリンガーを引き抜くと、その刀身を優しく抱きしめる。 「あんたが、人間だったら良かったのに」 『よせやい』 空を見上げる……月は雲に隠れているが、所々から綺麗な光線が漏れていた。 「この戦争を、終わらせましょう」 誰に言うでもなく…いや、自分に言い聞かせるように呟く。 月を見上げたルイズは、憑き物が落ちたように、穏やかな微笑みを浮かべていた。 To Be Continued→ 70後半< 目次 >72
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前ページ次ページMaximusな使い魔 教室に入り、マキシマとルイズを待っていたのは、好奇の視線だった。 平民を召喚したルイズ、平民で見た事もないような大男。 どちらかというと、後者に向けての視線が多いのだろう。 生徒たちの視線は若干高い。 二人を見て、クスクスと笑う者やひそひそ話をし始める者もいる。 そんな連中を一瞥すると、ルイズは視線を避けるように一番後ろの席に座り、マキシマはその後ろで腕を組み壁に背を預けた。 「なぁ。俺は教室の外で待ってた方がいいんじゃないか?」 「ダメよ。さっきも言ったでしょ?使い魔は主人に付き添うものなの。それに、今日の授業には使い魔をつれて来いって言われてるのよ」 聞けば、使い魔同士の顔合わせも兼ねているらしい。 「生徒の人数と外の人外の数が合わないんだが……」 教室を見回して生徒たちの使い魔を観察しながら思った事を口にする。 「大きくて教室に入れない使い魔もいるけど…ほら、外を見て」 言われるままに窓の外を見ると、なるほど。教室に入る事の出来ないような大きな使い魔達は外で一箇所に固まっていた。 「…俺も結構大柄な方だろ?外でもいいと思うぞ?」 「いくらなんでも無理があるでしょ…。と言うより何でそんなに外がいいの?」 渋りまくるマキシマに、ルイズは怪訝な目を向ける。 「……いや…何だか場違いな気がしてならないんだが…」 その言葉に「あぁ~…」っと呟くルイズ。 確かに平民の巨漢が、学院の教室に居るというのは違和感が凄い。 様々な動物や幻獣がいるが、マキシマは特に目立つ。 周りの生徒たちも「何食ったらあんなにデカくなるんだよ…」「2メイルはあるぞ…?」等マキシマについて話しをしている。 「とにかく!あんたはここに居なさい!それに、あんたの居た所って魔法が無いんでしょう?ならここで少し勉強しておいたらどうかしら」 ふむ。と考えるマキシマ。 確かに居心地は良くないが、魔法がどのような物かを知っておいて損は無いだろう。 「りょーかい。それじゃあ俺もお勉強させてもらうかな」 諦めたらしいマキシマを見て、ルイズは満足そうに椅子に深く腰掛けた。 「そういえば、あんたのいた所にも魔法みたいなものがあるって言ってたじゃない?どういうも のなの?」 思い出したようにルイズは聞いた。 「厳密には違うんだろうが…。まあその話はまたの機会にな」 教室に入ってきた教員と思われる中年の女性を見て、話を中断する。 温厚そうな見た目の女性は、近くにいた生徒達に笑顔で挨拶をしている。 「むぅ…」っと残念そうな顔をするルイズであったが、授業ならば仕方があるまいと諦める。 それまでおしゃべりに夢中になっていた生徒たちも席に座り始め、全員が席に着いたのを確認すると、女性は生徒達に激励の言葉をかけた。 「さて皆さん。春の使い魔召喚は全員成功したみたいですね。私も、この教室で再びあなた達に会えたことを、とてもうれしく思います」 マキシマがどういう事かルイズに聞くと、どうやら使い魔を召喚する事が出来なかった場合、進級する事が出来ないそうだ。 「まあ、実際に召喚が出来なかった事があったなんて話し、聞いた事がないけどね」 そう続けるルイズに、マキシマは「そういうもんなのか」と納得する。 教員の女性はマキシマに目を留めると、興味半分、驚き半分というような顔で、ルイズに声を掛ける。 「こ、これはまたずいぶんと珍しい?使い魔を召喚したものですねぇ。ミス・ヴァリエール」 「は、はい。私自身かなり驚いています…。アハハハ…」 落ち込んだような笑い方をするルイズの耳に、聞き覚えのある声が飛んできた。 「おい!ゼロのルイズ!召喚に失敗したからって、その辺にいた平民を連れてくるなよ!」 昨日ルイズと言い争いをしていた小僧だ。確か名前はマリコルヌだったか。 そんなマリコルヌの言葉を、ルイズは屁とも思ってないようだ。 「先生!グランドプレ君は気分が優れないみたいです!誰かが医務室に連れて行かないと 倒れてしまいます!その証拠に、昨日あった事も覚えてないみたいで…」 ルイズが心底心配そうな顔を作って言う。 その言葉に「まぁ!大変!」と慌てる女性。 当の本人は何が起きているのかが理解出来ていないようで、首をかしげている。 「昨日から心配してたんです。声が枯れてて、風邪じゃないかって言ったんですけど…」 ようやく自分が馬鹿にされている事に気づくマリコルヌ。 「おい!ゼロ!僕は風邪なんか引いてないぞ!?いい加減な事いうな!」 「聞きましたか先生!今のガラガラ声!昨日より酷くなってますよ?」 ルイズの演技に、女性は完全にルイズの言う事を信じてしまった。 「ミスタ・グランドプレ!貴方がどれだけ勉強熱心でも、風邪を引いていてはいけません。今は十分休養を取って、風邪を治してから授業に出ましょう。それまでは医務室から出てはいけませんよ?」 「そ、そんな!?僕は風邪なんか!」 そんなマリコルヌの悲痛な叫び声にも、教師は首を振る。 「その言葉は、まず喉が治ってから聞かせてください。医務室からここまではそんなに離れていませんから、そこのあなた。彼を医務室まで連れて行ってあげてください」 そう言って本を読んでいた青い髪の小柄な少女を指名する。 少女はコクリと頷いて、片手で本を読みながらマリコルヌの襟首を掴んでズルズルと引きずって行ってしまった。 引きずられてゆく最中、マリコルヌは何かを叫んでいたが、何を言っていたかは誰も聞き取れなかったようだ。 「さて。ミス・ヴァリエールの使い魔さん…じゃ呼びづらいですね。私はこの学院で教師をしているシュヴルーズといいます。あなた、お名前は?」 「マキシマだ。魔法の事について詳しくご教授していただくと助かる」 「まぁ!私の授業に興味が?そうですね。それでは皆さん。今日の授業は、昨日の召喚の儀式をひとまずの区切りにして、これまでの授業のおさらいにしましょう。では彼の主人であるミス・ヴァリエール。魔法の四大系統をお答えください」 シュヴルーズがルイズを指名して、問題を出す。 「火、水、風、土、です。メイジはそれぞれ自分の得意な系統を持ち、使い魔はメイジの得意系統にあったものが召喚される事が多いです」 自信たっぷりに答えるルイズに、シュヴルーズはパチパチと小さな拍手を送った。 「その通り。そしてメイジにはドット、ライン、トライアングル、スクウェアというようなクラスがあり、クラスが上がるごとに 使える系統が一つ増え、魔法に必要な魔力の消費量が減っていきます」 ルイズの説明にそう付け足すと、シュヴルーズは懐から小石を取り出して教卓の上に置く。 「私の系統は土。土系統は汎用性に優れていて、とても便利です。代表的なものが、錬金ですね。『イル・アース・デル』」 唱えながら杖を振るうシュヴルーズ。 すると教卓の上にある小石が黄金色に輝いた。 「ゴ、ゴールドですか!?ミス・シュヴルーズ!」 キュルケが思わず身を乗り出すが、シュヴルーズは首を横に振った。 「残念ですがこれは真鍮です。ゴールドを錬金するとなると、それこそスクウェアクラスの技量と魔力が必要になりますからね」 シュヴルーズの回答に、キュルケは本当に残念そうな顔をする。 (結構現金な性格してるんだな…) (そうね…) マキシマが小声で話し掛け、ルイズが同意。 キュルケが振り向いてルイズとマキシマを見たが、二人はあらぬ方向を見て目を逸らす。 「それでは誰かにこの『錬金』をやって貰いましょうか」 そういうと教室を見渡すシュヴルーズ。 「ではミス・ヴァリエール。お願いできますか?」 「ま、また私ですか!?」 まさか二度も指されるとは思っていなかったルイズは驚いたように聞き返す。 「ええ。自分の使い魔にいい所を見せるチャンスですよ。さあ、こちらに来てください」 言われるがままに教卓に向って歩き出すルイズ。 しかし、生徒の一人が声を上げた。 「先生!危険です!そいつに魔法を使わせちゃダメです!」 他の生徒達も必死にシュヴルーズに抗議したが、ルイズの魔法を見たことがないシュヴルーズには、何故生徒達がこんなに騒ぐのか理解できなかった。 「心配ありませんよ。錬金は土系統でも初歩の魔法ですから」 「先生は知らないだけなんです!ゼロのルイズが魔法を使うと…」 教卓に向うルイズの背中を見送りながら、マキシマは何故自分の主人が『ゼロ』と呼ばれているのかを考えていた。 (良い意味ではないんだろうが…なぜ『ゼロ』なんだ?) マキシマの疑問は、その後すぐに解消した。 「それではミス・ヴァリエール。この石を何でも良いので何か別の金属へ錬金してください」 「は、はい…」 ルイズの返答に、教室の生徒達が青ざめ、ざわつきだす。 そしてルイズが杖を取り出すと、生徒達が皆教卓から離れたり机の下に隠れたりしている。 「さあ、落ち着いて。大丈夫。あなたはとても勤勉な生徒です。きっとうまくいきます」 一度だけ深く深呼吸をして、ルイズが杖を振り上げた。 そのタイミングで、教室の扉が開いた。 「先生!僕が風邪じゃない事は、医務室の先生に証明してもらいました!」 「「あ」」 意気揚々と教室に戻ってきたマリコルヌが、光に包まれる。 石が、爆発した。 「こんな筈はぁぁーーッ!!」 シュヴルーズは黒板に叩きつけられ、マリコルヌは廊下へと消えていった。 飛んでくる破片を手で払いながら、マキシマは考える。 (何故失敗したんだ?確かにあの教師と同じようにスペルを唱えていたはずだ…) 「このゼロ!またやりやがった!」 「いつになったらまともに魔法を使えるようになるんだ!」 「一生無理だろ?」 「言えてる」 生徒達は、机の下から出てくると、ルイズに向って野次を飛ばし始めた。 悲しそうに俯き、こぶしを握り締めるルイズ。 (なるほどな…。成功率『ゼロ』パーセントってことか…) 爆発音を聞きつけた数人の教師達がやってきて、爆心地のすぐ近くにいたルイズを見てため息を漏らす。 授業を中止させて、ルイズに教室の後始末を命じると、生徒達と一緒に教室を出て行った。 教室に残ったのは、ルイズとマキシマだけだった。 二人は黙々と破片を拾い集め、煤だらけになった床や机を拭いていく。 「…分かった?私がなんで『ゼロ』なんて呼ばれてるのか」 「…ああ」 不意にマキシマに声を掛けるルイズ。 「私ね、一度も魔法が成功したことがないの…。一度もよ?ドットにもなれない、一にも満たないゼロ…。笑っちゃうでしょ?」 自嘲気味に語るルイズには、普段の覇気がまったくない。 聞いてる方が悲しくなるような声で、ルイズは続ける。 「失望したでしょ?笑いたければ笑っていいのよ?」 ポロポロと涙を零しながら喋るルイズの頭に、マキシマが手を乗せる。 「…ゼロじゃないだろ?」 「え?」 鼻をすすりながら、聞き返す。 「ゼロではないだろう。現に、俺を召喚したのは嬢ちゃんだ。違うか?」 マキシマの言葉に、呆気に取られるルイズ。 「まさか、励ましてくれてるの?」 「いや、事実だろう?だから、俺は今ここにいる」 それに と続けるマキシマ。 「見返してやるんだろ?嬢ちゃんを笑った連中を」 その言葉に、ルイズは頷いた。 「そうよ。確かに今は魔法が使えないかもしれない…。でも、諦めないわ!絶対に偉大な貴族になってみせる!」 胸を張り、そう宣言したルイズは、服に付いた汚れを払う。 「さっさと終わらせるわよ!昼食に間に合わなくなっちゃう」 そういって作業に戻ろうとするルイズ。 「その前に、やる事があるだろ?」 「…何よ?」 「顔。洗ってきたらどうだ?」 ガラスの破片を見せると、ルイズは「うっ…」と唸った。 ルイズの顔は、煤と涙の跡で酷い事になっていた。 「ち、違うのよ!別に泣いてなんかないんだから!」 そういうと、教室の外へと走ってゆくルイズ。 その姿を、マキシマは微笑ましそうに見送った。 前ページ次ページMaximusな使い魔
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一覧へ戻る / 次のページへ 私にはお父様の望みをかなえる事はできない。 私にはそれだけの力が無いから。 だから私はお父様を眠らせようとした。 ひとつに戻ったお父様も眠る事を選んだ。 それでいい。 私もまた眠ろう、この子の中で。 願わくば、二度と目覚める事が無いように。 私が目覚めるという事は、お父様もまた目覚めるという事だから。 けれど。 「カミュちー?」 親友の少女が、この子に話しかける。 この子は故郷の方角の空を見上げ、呟いた。 「……おじさま?」 少女から渡された蜂の巣のカケラを、この子は地面に落としてしまう。 そして、この子の中で、私はひっそりと目を覚ました。 転移術? ううん、違う。それとはもっと異質な力の流れを感じる。 何が起きているのか、ここからじゃよく解らない。 けれど、ひとつだけ、なぜか確信できた事がある。 だから。 「……さようなら、お父様」 私はこの子の口を借りて、お別れを言った。 親友の少女も、理屈ではなく、本能的に何が起きたのかを察する。 「おと~さん……!」 それは誰の目にも留まらず、聞こえぬ場所で起こったはずの出来事。 けれどお父様に関わった人々は、親友の少女のように、それに気づく。 双子を従え、鉄扇を手に旅をする若者が空を見上げる。 「兄者……?」 戦場を渡り歩く美しき傭兵二人が空を見上げる。 「主様……」 「聖上……?」 皇の代理を務める武人が業務のかたわら、ふと窓から空を見上げる。 「……聖上」 無邪気に花畑で遊ぶ少女が空を見上げる。 「おろ~……?」 小さな村で墓参りをしていた少女が空を見上げる。 「……ハクオロ、さん?」 第1話 呼び出されるもの トリステイン魔法学院にて、春の使い魔召喚の儀式が行われていた。 二年生になった生徒達が、次々に自分に相応しい使い魔を召喚していく。 しかし、彼女の出番になった途端、儀式は滞りを見せた。 学院内の広場の中、多くの生徒と、教師のハゲ頭が見守る中、 彼女は一人前に出て、恥をかきながらも懸命に詠唱を繰り返し、爆発を起こしていた。 もう何度笑われたのか解らないし、もう彼女の失敗に飽きてそっぽを向いてる者もいる。 それでも、まだ嘲笑を浮かべて彼女を見ている生徒は何人かいた。 しかしその中に、嘲笑ではない表情を浮かべてルイズを見守る赤毛の美女や、 彼女のがんばりを重々理解しているハゲ頭の教師などは、 彼女の成功を半ばあきらめながら、成功するという奇跡を期待して見守っていた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 この詠唱で、もう何度目だろうと彼女は杖を握りしめる。 「五つの力を司るペンタゴン!」 これを失敗すれば留年か落第か。 「我の運命に従いし」 今まで色んな魔法を唱えてきて、そのたびに成功して欲しいと強く願っていた。 けれど、今ほど強く願った事はない。 これで失敗してしまったら、もう、ここにいる事すら許されなくなってしまいかねない。 「"使い魔"を召喚せよ!」 だから、どうか使い魔を呼び出せますように。 神聖でも強力でもなくていい。 犬や猫でも構わない。 いっそネズミでもいい。学院長のオールド・オスマンの使い魔もネズミだし。 ホント、もう、何でもいいから、召喚されなさい! と、彼女は強く願った。 銀の光。 鏡のような、丸い銀の光が、彼女の前に現れる。召喚のゲートだ。 鳶色の瞳にその光を映してルイズは、純粋な驚きに目を見開いた。 感動は無かった。 強く強く願っていた事が起きたのに、それが信じられない。 信じていないから感動もできない。 それは赤毛の美女や、ハゲ頭の教師も同じだった。 赤毛の美女の異変に気づいて、その隣で本を読んでいた青髪の少女も顔を上げる。 だから真っ先に何が起きたのか理解したのは、その青髪の少女だった。 続いて、ルイズと、赤毛の美女キュルケと、ハゲ教師コルベールも理解する。 「成功、した……」 と、口にした瞬間、ルイズの胸に感動が湧き上がった。 キュルケも、コルベールも同様だった。 異変に気づいた生徒達は、感動ではなく、ただ驚くだけ。 小さな胸を震わせながら、ルイズは杖を握りしめて真っ直ぐにゲートを見つめる。 召喚の、サモン・サーヴァントのゲート。 後は、あそこから出てくる自分の使い魔をコントラクト・サーヴァントをすれば完璧だ。 いったい何が出てくるのか、自分の使い魔はいったい何なのか。 不安は無かった。期待と、すでに成功したも同然という歓喜が胸中を渦巻く。 そしてルイズの頬がほころぶと同時に――ゲートから、黒い霧が噴出した。 「えっ!? な、何っ!?」 黒い霧はあっという間にルイズの周囲に広がり、彼女を覆い隠す。 通常の召喚ではありえぬ異常事態にコルベールは慌ててルイズの元へ向かおうとする。 「ミス・ヴァリエール!」 だが黒い霧に阻まれ、中に入る事ができない。 魔法を詠唱しても黒い霧に呑み込まれるだけだった。 黒い霧の中で、いったい何が起こっているのか? ルイズは――いったい何を召喚したというのか! 空も地面も、周囲にいるはずのクラスメイト達や教師の姿も、黒い霧によって隠される。 外でコルベールが叫んでいるが、その声すらルイズの元には届いていなかった。 「な……何なの? 何なのよこれ? まさか、また……失敗しちゃったの?」 期待も歓喜も、不安という霧に呑み込まれて消え去り、ルイズは後ずさりをした。 「み、ミスタ・コルベール! あの、どうすれば……ミスタ・コルベール!?」 助けを求めて声を張り上げても応えるものは無かった。 いや――あった。 「我ガ眠リヲ妨ゲタノハ汝カ、小サキ者ヨ」 重厚な、聞くだけで気圧される人外の響きにルイズは肩をすくめる。 「だ、誰!?」 「我ガ眠リヲ妨ゲタノハ汝カ、小サキ者ヨ」 声は、頭上から聞こえた。 ハッと見上げてみれば、黒い霧の中、光る一対の双眸が自分を見下ろしていた。 十メイルはあろうかという巨躯が、ゲートのあっただろう位置に立っている。 つまり、この声の主は、自分が召喚した――使い魔? 「そ、そうよ。あんたをここに呼んだのは、私よ」 「……我ガ眠リヲ妨ゲタ理由ハ何ダ」 「そ、それは……つ……」 使い魔、って言ったら怒るかな? と、ルイズは怯えた。 だって、何か知らないけどこのデカい奴、怖そうだし。 「……魔、として、召喚して……契約を……」 だからつい、使い魔という単語をどもらせてしまった。 そして、使い魔という単語が聞こえなかったため、 呼び出されたそれは『契約』という自分にもっとも係わりの深い単語に反応した。 「我トノ契約ヲ望ム。ソレガ汝ノ願イカ、小サキ者ヨ」 「え? け、契約してくれるの!?」 「ヨカロウ」 黒い霧のせいでよく解らないけど、こんなに大きくて、 しかも人語を操るとなれば、そりゃもうとんでもない幻獣か何かだろう。 不安や恐怖がすべて吹っ飛び、ルイズはガッツポーズを取った。 こんな規格外の幻獣を使い魔にできるなんて、それなんて勝ち組? メイジの実力を見るには使い魔を見ろ、だなんて格言もあるし、 こんなすごい使い魔の主なんていったら、もんのすごくどえらいですよ自分。 「じゃ、じゃあ早速――」 コントラクト・サーヴァントを、と続けようとした。が。 「ナラバ、我ニ汝ガスベテヲ捧ゲヨ」 「……はい?」 「ソノ身体、髪一本、血ノ一滴ニ至ルマデ、ソノ穢レ無キ無垢ナル魂。 汝ノスベテヲ、我ニ差シ出セ」 「…………」 このデカい奴、いったい何を言ってるんだろう? だって、サモン・サーヴァントは使い魔を呼ぶための魔法。 なのに、呼び出された使い魔に、ご主人様がすべてを捧げるって何? 普通逆でしょ。 とはいえ下手に文句を言って、機嫌を害しては契約できないかもしれない。 「……じゃ、とりあえず契約するから、しゃがんで、顔をきちんと見せてくれない?」 ルイズの言葉を肯定と受け取り、黒い霧の中で、その巨体が膝をつき腰を折る。 そしてルイズの頭上に、光る双眸と鋭く生え揃う牙が近づく。 大きな口。ジャンプすれば、何とか届くかな? 「契約は成立シタ。汝ガ願イ、確カニ――」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 早口に詠唱し、ルイズは力いっぱいジャンプすると、 獰猛な牙の並ぶ大きなそれに口付けした。 「娘、コレハ何ノ真似――」 疑問の声が途中で途切れ、巨躯は突然立ち上がる。 「グオオォォォォォォッ!?」 腹に響くほどの大声で吼えながら、そいつの顔の下、胸の辺りが輝いた。 「落ち着いて。使い魔のルーンが刻まれてるだけよ。 ……うふふっ、契約しちゃえばこっちのものなんだから!」 呼び出された巨躯の幻獣の咆哮が小さくなるにつれ、 ルイズの周囲を包む黒い霧も次第に晴れていった。 ルイズはみんなの反応が見たくて、自分の召喚した使い魔の姿を見たくて、ニヤニヤと笑う。 巨体を誇る幻獣。 いったいどんな姿をしているのか? ワクワクが止まらない。 そして黒い霧が晴れた。 ルイズは前方を見上げていた、そこに自分の呼び出した使い魔の顔があると信じて。 「……あ、あれぇ?」 だが、霧が晴れた時、ルイズの前に使い魔の巨体は無かった。 青く晴れ渡った空が広がっているだけである。 使い魔の姿を探して、視線を降ろしてみる。 男が、仰向けに倒れていた。 白と青を基本としたゆとりのある奇妙な服を着ていて、 顔の上半分を隠す形の白い仮面が不気味であった。 ……誰? これ? 呆然とするルイズ。その周囲で、失笑が、続いて爆笑が巻き起こる。 「見ろよ! ルイズの奴、平民を召喚したぞ!」 「何だあの恰好、大道芸の奴か何かか?」 「さすがは"ゼロのルイズ"だ!」 笑われて、ルイズはハッと正気に戻った。 「ち、違……これは、私の使い魔じゃ……あいつは? あの大きい奴はどこ!?」 慌ててキョロキョロと周囲を見回すが、あの巨体が隠れられるような場所は無いし、 姿形などどこにも見当たらない。何で? 何で!? 困惑するルイズを無視して、コルベールが倒れている仮面の男に歩み寄る。 男が胸元を押さえているため、手をどけて奇妙な服の胸元をはだけさせてみる。 仮面の男の胸には、くっきりと使い魔のルーンが刻まれていた。 「ふむ……珍しいルーンだな。ミス・ヴァリエール。あの黒い霧の中で契約したのかね?」 「え? は、はい。でも私が契約したのは――」 ルイズの説明を聞きながらコルベールは杖を振るい、光の粒子を舞わせた。 ディテクトマジック(探知)で男を調べるが異常は感じられない。 あの黒い霧の正体は不明で、まだ問題が無い訳ではないが、契約の成功は事実。 「人間の使い魔など前代未聞だが、ルーンも刻まれているし、成功だ。おめでとう」 「違っ……」 ルイズが否定しようとすると、倒れている仮面の男が頭を押さえながら半身を起こした。 「う、う~ん……」 その瞬間、ルイズの怒りが爆発する。 大股で詰め寄り、ギラギラと血走った双眸で睨みつけながら、仮面の男の前に立つ。 「ちょっと! あんた、誰? 私の使い魔は、どこ?」 声をかけられた仮面の男は、虚ろな目でルイズを見上げた。 「……ムツ、ミ?」 「寝惚けてんじゃないわよ! あんたいったい何なの? とりあえず、その仮面を外しなさい。貴族の前で無礼だわ」 ルイズに怒鳴られ、仮面の男はぎこちない仕草で顔に両手を当てた。 「仮面……?」 自らのかぶる、白い硬質の仮面の感触を確かめると、男は虚ろな瞳を、ルイズに向ける。 「……私は…………」 そして、言った。 「私は、誰だ」 二度ある事は三度ある。 この人、実は記憶喪失になりやすい体質なんじゃなかろうか? とはいえこうしてハルケギニアの地に、彼は降臨した。 禍、元凶、解放者、大神(オンカミ)……うたわれるものが。 一覧へ戻る / 次のページへ
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前ページ次ページゼロの賢王 トリステイン魔法学院。 その中庭で、ドカーンと威勢のいい音が鳴り響いた。 これで何度目だろう・・・。 同じ制服を着た少年少女たちは、1人の少女を見ながらそう思っていた。 ピンクブロンドの髪を振り乱し、華奢な体をふるふると震わせる少女。 彼女の名はルイズと言った。 ルイズは何とか自分を落ち着かせると、再び目を閉じて、杖を構えた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 そう静かに、そして確かに呪文を唱える。 「五つの力を司るペンタゴン」 これは召喚魔法。 彼女のパートナーとなる使い魔をこの場に呼び寄せる呪文である。 「我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ」 少女は力を込めて杖を振った。 その直後、目の前で大爆発が起きた。 大量の土煙が舞い上がり、その場には大きなクレーターまで出来ていた。 周りで見学していたルイズの同級生たちは誰もが、 「『ゼロのルイズ』がまた失敗した」 そう思い、ルイズを嗤おうとした。 その時、立ち込める煙の中に人影が現れた。 少女は目を見開く。 もうもうとした土煙が晴れると、そこには金色の長い髪の男が倒れていた。 「・・・え?」 ルイズは愕然とした。 ドラゴンやグリフォンなどといった高等な生物まではいかなくとも、 せめて使い魔らしい使い魔を呼びたかった。 だが、目の前にいるのは人間。 しかもどう見ても平民である。 それに気付いてから同級生たちの嘲笑の声が辺りに響き渡るのに時間は掛からなかった。 「ハーッハッハッハハ!!!おい、見ろよ。あれ平民だぜ!?」 「やっぱり『ゼロのルイズ』だな!!アハハハハハハ」 「ひ・・・ひ・・・も、もうダメ・・・笑い過ぎで、腹が・・・!!」 ルイズは頭の中が真っ白になった。 暫く呆然としていると倒れていた男がピクリと動く。 「んん・・・」 男は頭を押さえながらよろよろと立ち上がった。 そして、薄く開いた目で辺りをキョロキョロと見回している。 その顔もこれまた野暮ったい顔である。 年齢もこの召喚テストを取り仕切っているコルベールと変わらない様に見える。 ルイズは思わず頭を抱えていたが、すぐにピンクブロンドの髪をひるがえして、 側でルイズと同じ様に呆然としているコルベールへと向き直った。 「ミスタ・コルベール!」 「・・・あ、な、なにかな、ミス・ヴァリエール?」 「あの・・・も、もう一度!もう一度召喚させて下さい!!」 「それは出来ない」 コルベールは首を振って否定の意を示した。 「使い魔の召喚は神聖な儀式だ。一度呼び出した使い魔を変更することは出来ない」 「でも、アレは平民です!使い魔じゃありません!!」 「例え平民であっても、召喚された以上は君の使い魔だ。君は責任を持って彼と契約する義務がある」 「で、でも!!」 ルイズは必死に食い下がるが、コルベールは再び首を振ってそれを拒否した。 「さあ、早く『コントラクト・サーヴァント』をしたまえ」 「し、しかし!!」 そうは言いながらもルイズは分かっていた。 『サモン・サーヴァント』が成功したのは、今の自分にとっては奇跡的なことであり、 今が最後のチャンスなんだということを。 正直、ルイズは再び『サモン・サーヴァント』を成功させる自信が無かった。 「ちょっといいか?」 突如聞こえた言葉がルイズの思考を遮る。 気が付くと、男が二人の側まで来ていた。 「ここは一体何処だ?俺は一体どうなった?さっきまで確かに船の上にいたんだがよぉ・・・」 ルイズは横目でジーっと男の顔を見る。 そしてハァとため息をつくと、覚悟を決めたかの様に男へと向き直った。 「あんた、名前は?」 そう言うと、ルイズはキッと男を睨み付ける。 頭で納得出来ても、やはり心では納得出来ていないのだ。 男はいきなり睨み付けられて少しムッとした顔になった。 「お嬢ちゃん。人に名前を聞く時はまず自分から名乗るのが年上に対する礼儀って奴だぜ?」 「いいから名前!!」 「だから、まずそっちが名乗れって・・・」 「名前!!!!」 「・・・・・・」 男は先程のルイズの様にため息をつくと、やれやれと言った感じで答えた。 「・・・ポロンだ」 「ポロン?変な名前ね。いいわ、ポロン。ちょっと屈みなさい」 そう言うとルイズは人差し指をポロンに向けて、下へと曲げた。 「ハァ?何で俺がいきなり会った見ず知らずのガキに名前呼び捨てにされて、 更に言われた通りにそんなことしなきゃならねえんだ?」 「ガキ・・・?(ピキッ)・・・いいから早くしなさい」 「ったくよぉ」 ポロンはこれ以上言っても無駄だと思い、渋々身を屈めた。 ルイズの顔が近くなる。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 (意外と可愛い顔しているな) ルイズの顔を間近で見て、素直にポロンはそう思った。 だが、ポロンとて愛する妻がいる身であり、血が繋がってはいないもののたくさんの子供もいる。 ポロンがルイズに感じた可愛さは、親が子に思うそれと同質のものであった。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ!」 それに見惚れていたというわけではないが、ルイズの突然の行動にポロンは何も出来なかった。 重なる唇。 流石のポロンもサクヤや子供たち以外と口づけを交わすのはかなり久し振りであり、少し気恥ずかしくなる。 ルイズの体がポロンから離れた。 「・・・終わりました」 それだけ言うと、ルイズの顔は急に赤くなりポロンから目を背けた。 可愛らしいところもあるんだな、と思った瞬間、ポロンの左手に激痛が走った。 「何!?」 毒でも仕込まれたのか?と一瞬勘ぐったが、痛みはすぐに治まった。 代わりに左手には見たことも無い文字で印が刻まれていた。 「何だ・・・こりゃあ?」 「それは使い魔のルーンよ」 「使い魔の、ルーン?・・・つーか、使い魔って何だ?」 「使い魔は使い魔よ。ポロン、今日からあなたは私の使い魔となるのよ」 「ハァ!?何だそりゃ!?」 ポロンは開いた口が塞がらないという感じで言った。 するとコルベールが二人の間へ入った。 「ミスタ・・・そのことは私から説明しましょう」 コルベールから今の事情について簡単に説明した。 今は使い魔召喚の試験を行っているということ。 ミス・ヴァリエール・・・つまりそこの少女がポロンを召喚したということ。 彼女はこの試験に合格出来なければ留年となること。 故にポロンと使い魔の契約を交わしたということ。 「何じゃそりゃあ!?俺は使い魔なんてやらねえぞ!!」 それを聞くとポロンは全力で拒否の意を表明した。 いきなり見知らぬ土地へ連れて来られて、更に見知らぬ子供に口づけされて、 それで今度はその子供の使い魔となれ。と言われているのだ。 拒否しない方がおかしい。 「ハァ?何言ってんの?あんたみたいな平民に拒否権なんて無いわよ」 「ああ?あんだってー?」 「平民が貴族に従うのは当然じゃない!大人しく使い魔になりなさい」 「今のでカチンと来た!!絶対に嫌だね!!」 ポロンが頑なに拒否していると、またクスクスと笑い声が聞こえる。 「おい、『ゼロのルイズ』が平民に拒否られてるぞ!」 「アハハハハ、自分の使い魔に拒否られるなんて流石は『ゼロのルイズ』だな!!」 「ていうか、あれって使い魔なの?ただの平民だろー?」 その声は、事情を知らないポロンさえも不快な気分にさせた。 『ゼロのルイズ』が何を意味しているかは分からないが、 目の前の少女が馬鹿にされている。というのは伝わって来る。 ふと見ると、ルイズはわなわなと震え、目には涙を浮かべていた。 ポロンは「ふむ」と顎に手をやると、すぐに軽く頷いた。 「おい」 「・・・何よ?」 「使い魔になってやってもいいぜ」 「へ?で、でもあんたさっき絶対に嫌だって・・・」 「気が変わった。これからよろしくな、えーっと・・・ルイズだっけ?」 「な、何で私の名前を?」 「さっきから周りのガキ共が『ルイズ』って言ってたからな。お前のことだろ?」 「ええ・・・」 『ゼロの』という部分を敢えて言わないのはポロンの優しさだった。 本来のポロンは子供にはとても優しい人間である。 『ゼロ』が示す意味については気になる部分もあったが、それが彼女にとって触れられたくないものである。 ということはすぐに察せられたので『ルイズ』とだけ言ったのだ。 「ふ、フン!最初から素直に使い魔になってれば良かったのよ」 「素直じゃないのはお互い様でね」 「な、何よ!」 二人の様子を見てコルベールは安心したように頷くと、ふと何かを思い出してポロンの元へ駆け寄った。 「すみませんミスタ、その左手のルーンを見せていただいてもよろしいですか?」 「あん?これか?別にいいけど・・・」 「ふむ、珍しいルーンだ。有難う」 コルベールは素早くポロンのルーンをスケッチすると、手をパンパンと叩いて皆の注目を集める。 「では皆さん、これから部屋へ戻って今呼び出した使い魔との交流を深めて下さい」 コルベールの号令とともに他の生徒たちもぞろぞろと部屋へ戻って行く。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ、フライはおろか、レビテーションさえまともにできないんだぜ!」 去り際にそんなことを言いながら飛んでいく生徒たちを見てポロンは驚いた。 その様子を見て、ルイズは「魔法を知らないなんて何処の田舎者よ」と呆れていたが、 ポロンが驚いていたのは飛べることではなかった。 (何で飛べるんだ!?世界から呪文は失われたはずなのに・・・) 思わずポロンは立ち尽くしていた。 ルイズはそんなポロンに気付かず、その場に置いて先へ進んでしまった。 ポロンは暫く呆然としていたが、ハッと気が付くとすぐに地面へ手を向けた。 「メラ・・・!」 すると、懐かしい感触とともに手の平から火の玉が放たれた。 火の玉は地面へ着弾すると、そのままパチパチと燃えている。 (呪文が・・・使える・・・だと!?) これは絶対に有り得ないことであった。 『失われし日』を境に呪文の消失は全世界に及んでいた。 魔力の有無に関わらず、全世界で呪文を使用することが出来なかったのだ。 それが使用出来るというのは、すなわちここが自分たちが知る世界では無い、ということである。 「・・・・・・」 ポロンはごくりと唾を飲み込むと、もう一度呪文を唱えた。 「メラゾーマ!!」 しかし、今度は何も起きなかった。 (魔力は足りている。呪文を忘れた?いや、違う。そういう感じじゃねえな・・・。急に使えるようになったから、心と体が慣れていないのか?そんな感じだな・・・) 「ちょっとポロン!!何で付いてきていないのよ!!」 ルイズが急いでポロンの元へ駆けつける。 ポロンはルイズの顔を見た。 ルイズは怒りながらも何処か不安そうな顔をしていた。 (そうか・・・俺がお前を置いてどっかへ行っちまったとか思ったんだな) 「ああ・・・すまねえな」 そう言うと、ポロンは軽く頭を下げた。 「ふ、フン。はぐれるんじゃないわよ!・・・ほら私の部屋へ案内するから。今度は一緒に付いて来るのよ?いい、離れないでね?」 ポロンは笑いながら頷くと、ルイズの後を追って歩き始めた。 前ページ次ページゼロの賢王
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前ページ次ページTHE GUN OF ZERO ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは杖を突き出した体勢のまま、震えていた。 場所は、トリステイン魔法学院のすぐ側。 進級試験の一環として、使い魔の召喚と契約の義が行われていたのだが、自身はことごとく失敗を続け、担当教官のコルベールより最後のワンチャンスという宣告を受けていたのにも関わらず、突き出した杖の先で起きたのは、爆発。 「ハハハハハ!」 「やっぱり、ゼロはゼロだな!」 「これで留年だな、留年!」 (そんな……) 脱力し、力なく腕を下ろす。……後ろから投げつけられる罵声が痛い。 うっすらと、涙ぐむ鳶色の瞳が、爆発跡に立ち上る爆煙を睨み付けていた。 そこに、動く者が居る。 「へ?」 何とも間抜けな声を上げてしまったが、煙が晴れるより先にそいつは近づいてきて、ルイズの前に立った。 「俺を呼んだのは、お前か」 そこにいたのは銀髪で翠色の瞳を備え、銀色銀色を基調とした全身を覆う奇妙な服を着た少年だった。 「え……え?」 「助けを呼ぶ声が聞こえた。窮状に陥っていて、どうしようもないから助けて欲しいと懇願していて、ゲートを開いたのは、お前か」 「げ、ゲート?ていうかそれは……」 確かに、助けを請うたかも知れない。他の生徒にバカにされるのが悔しくて、もはや何でも良いから自分の所に来てくれと願ったかも知れない。 「見ろよ!ルイズの奴、平民を召喚しやがったぜ!」 「あはは!流石はゼロのルイズだな!」 「ルイズにはお似合いの使い魔だ!」 散々に笑い飛ばす面々に、ルイズはハッとして担当教官を振り返った。 「ミスタ・コルベール!召喚のやり直しを!平民を使い魔にするなど、前例がありません!」 ルイズの言葉に、ゆっくりとコルベールは首を振った。 「ミス・ヴァリエール。使い魔の召喚は神聖なモノだ。やり直しをする訳にはいかない。それに何より、今の口ぶりでは彼は正に君のために召喚に応じたと言うことになる」 言われて、銀髪の少年に向き直る。 当の彼は首をひねっていた。 「済まない。正直あまり事情が飲み込めていないんだが……」 「君は呼ばれたんだよ。この、ミス・ヴァリエールの使い魔としてね。そしてここは、トリステイン魔法学院だ」 「魔法?そうか、ここは魔法がある世界か」 よく分からない言い回しを少年は口にした。 「だが、必死に助けを求めていたにしては、ここは平和に見えるが」 「うむ。ミス・ヴァリエールにしてみれば必死だっただろう。何しろ、使い魔を呼び出すことが出来なければ、彼女は進級出来ないのだから」 「そうか。話には聞いていたが、大変なんだな、学生は」 しみじみと頷く。 「……では、俺がここに来たと言うことは彼女の危機はもう去ったということか?」 「いや」 コルベールが首を左右に振る。 「使い魔を呼び出した上契約まで果たすことによって初めて、召喚の儀式は完成する」 「契約……つまり、俺が彼女に仕えるということか?」 うむ、とコルベールが頷くと、少年はじっと考えこんだ。 「……わかった。少々条件は欲しいがお前の使い魔に成ろう」 顔を上げ、ルイズの方を見る。コルベールも促すようにルイズを見た。 だが、ルイズの方はそう簡単ではない。そりゃあ、せっぱ詰まったせいで何でも良いから来てくれと願ってしまったが、平民だなんてのは考えの外だ。 第一、契約の方法が方法である。 (そんな……私のファーストキスよ!?ファーストキス!それが……) 平民などに奪われるなど、全くもって冗談ではない。 「うううううぅぅぅ……」 小さくうなり声を上げつつ少年を睨み付けてやる。 「どうした?何か調子が悪いのか?」 全くこちらの葛藤を理解もせずに、脳天気にもこちらの心配などしてきている。 「ええ、そうよ!調子が悪いのよ!アンタみたいな平民を呼んじゃうだなんて!」 「嘘付くなよ『ゼロのルイズ』!」 「失敗ばかりなのはいつものことだろう!?」 「煩いわね!?」 外野のヤジに噛み付く。 「『ゼロ』?」 少年が、その言葉を繰り返した。 「な、何よ……」 「ルイズ、というのがお前の名前か。それに『ゼロ』……えらく強そうな呼び名だな」 「はぁ……?」 何とも的外れな少年の言葉に、怒るよりも先に呆れてしまう。 「それで、契約とはどうするんだ?どうすれば成立する?」 「う……」 唐突に本題を振られ、苦い表情になるルイズ。再び少年を睨み付ける。 「……どうした?」 せめてもの救いなのは、顔は良いことか。 ふかーくため息をつき、ルイズは一歩、少年に近づいた。 「ちょっと屈みなさい」 「こうか?」 片膝を付く少年の頬を掴み、こちらの顔を近づける。 「感謝しなさいよね。普通ならこんな事、されることは無いんだから」 「なに?」 心中、必死に「これは使い魔だからノーカン、これは使い魔だからノーカン」と唱えながら口では契約の呪を紡ぐ。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 そっと交わされる口付け。 少年は一瞬面食らったような顔をしていたが、ルイズが離れる時には元の表情に戻っていた。 「成る程、キスが契約のキーか……っつ!」 ルイズが立ち上がったところで、少年は左手を掴んで呻く。 「何だ、これは……っ」 「契約のルーンが刻まれているのよ。すぐに痛みも止むわ」 「ルーン……?」 怪訝な顔で尋ね返しつつ、自身の胸の辺りを弄る少年。するとその体から空気の抜けるような音がし、ガバと彼は胸元を開いた。 「ちょ、ちょっとあんた何考えてんのよ!?」 顔を手で覆いながら、それでも指の間から意外と厚い胸板をしっかり見つつ、批難する。 後ろの女生徒達からも悲鳴が上がっていた。 「ルーンとは、これか?」 袖から腕を引き抜き、調度遠山桜を晒すような姿になりつつ、左手を掲げた。 「随分と脱ぎにくそうな服だね。……それにしても、珍しいルーンだ。私も見たことがない。スケッチしてもよろしいかな」 コルベールがしげしげとそれを見つめる。少年が頷き返すと、そそくさと書き写した。 「ふむ。ではこれにて、春の使い魔召喚の義は終了とする。各自、次の授業に向かうように」 コルベールから解散の礼を受け、教師と生徒達は召喚したばかりの使い魔を伴って学院の方へと飛ぶ。 「ルイズ!お前は後から歩いて来いよ!」 「そうそう!お前はフライもレビテーションも使えないんだからな!」 「その平民の使い魔と一緒にな!」 わざわざ言わずもがなの事を言い残しつつ遠くなっていく生徒達を睨みながら、ルイズは奥歯を噛み締めていた。 服を着直しつつ、ルイズの見ている方向を一緒に見ていた少年は、ルイズが振り返ると少し間を空けて語りかけた。 「――自己紹介がまだだったな。俺の名はクォヴレー、クォヴレー・ゴードンだ」 前ページ次ページTHE GUN OF ZERO
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ゼロの番鳥外伝『ルイズ最強伝説』 Q.ペットショップとギーシュが決闘してる間、逃げたキュルケとそれを追い駆けたルイズは何をしていたんですか? A.こんな事をやっていました ドカーン!バゴーン!ドカーン!バゴーン! 学院に爆発音が響き渡る。勿論、その原因は私の魔法だ 「あはははははははははは!!!!!」 口から溢れる笑いを止める事が出来ない。得体の知れない恍惚感が体を震わせる!何かカ・イ・カ・ン!最高にハイ!ってやつよ! 脳が破壊と破壊と破壊を求めて矢継ぎ早に指示を出す。 私の笑いに反応したのか、逃げているキュルケが振り返ってこっちを見た。ん?何で脅えたような顔をするんだろ? 悪鬼を見たような顔をするなんて、私の繊細な神経が酷く傷ついたわ! 「大人しく吹っ飛ばされなさい!」 魔力を注ぎ呪を紡ぎ、発動の引き鉄となる杖を振って、私が唯一使える大得意な魔法を放つ! ドン! やった!ドンピシャのタイミングで爆発が起こった! キュルケが予期したように回避行動を取ったが、私の狙いはキュルケでは無く、その頭上! ガラガラガラガラ・・・・・・・・・「うひゃぁっ!?」 みっとも無い叫び声を出しながら天井の崩落に巻き込まれるキュルケ キュルケの生き埋めの出来あがり♪と小躍りしそうになったが、下半身しか埋もれてないのに気付いた。チッ。 瓦礫の下から何とか抜け出そうと足掻いてる。くふふふ、無様ね。トドメをさしてあげるわ。 「んふふふふふ・・・・・・」 わざとらしく足音と笑い声を立てながらキュルケの前に立つ。 キュルケは慌てて床に転がった杖を取ろうとしたが、その手が届くより先に、私の足が廊下の彼方に杖を蹴り飛ばす。 顔面が蒼白になるキュルケ、私の狙いに気付いたようだ。 「ル、ルイズ、もう冗談は止めましょ?ね?杖なんか掲げてると危ないわよ?私達友達でしょ?」 先程までとは一変して哀願口調になる。ふん、それで男は騙せるとは思うけどこのルイズ様にはそんなの通用しないわよ 死刑を執行しようと、杖を振って呪文を唱え―――そこで私は気付いた!キュルケの目が私では無く、私の後ろを見ている事に! 「エアハンマー!」 刹那、転がって回避した私の横を空気の槌が通過――――そして ドゴン!「ふげっ!」 私が回避した事により、直線状に並んでいたキュルケに当たった。身動きできないんだからどうやっても避ける事は出来ないわよね。 潰れた蛙のよう声を出して気絶するキュルケ。ああ、何て可哀想なの!とても嬉しいわ私!うふふふふふ 大声で笑いたかったが。それよりも私に攻撃しようとした不埒者にお仕置きするのが先。 「ミス・ヴァリエール!杖を捨てろ!!」 下手人は魔法学院の先生の一人だった。生徒に魔法を使うなんて野蛮にも程があるわよ。 「杖を早く捨てて!頭の上で手を組んで床に跪け!早く!」 私は声を聞き流して、その先生に近づく。 どうせ教師の職権を乱用して、世界三大美少女に入るほど可憐な私に性的な悪戯をする気満々だろうし!命令を聞く気は無いのよ! 「ヴァリエール!指示に従え!!」 焦れたように叫ぶが私はそんなのを聞く気は一切無い。 距離が5メイルを切ってから―――私は一気に走り出した。 「くそっ!どうなっても知らんぞ!?エアハンマー!」 先生が杖を振り空気の槌が私の腹部に直撃―――する寸前! 私は滑るような足捌きで突如体を平行移動させる。ドガッ!「ひげぇ!」 後ろからキュルケの声が聞こえた、どうやらまた私が回避したことにより外れた弾の直撃をくらったらしい。 いい気味ね 「はぁぁぁ!?」 回避するとは思わなかったのか、化物を見るような眼で私を見つめる先生。 あんなんで倒せると思うとは甘い甘い。ココアにミルクと砂糖をたっぷり入れて生クリームを乗っけたより甘いわよ! 時が止まって見えるほど集中した私には、服の下の筋肉の微細な動きまで見えたんだから! 「おおおお!?」 魔法を放つ余裕が無いのか無我夢中に杖を振って私を殴り付けようとするが。 私は身を屈めてそれを回避!その動きのままに先生の懐に潜りこんだ!顔に驚愕の表情を張り付けているのが良く見える。 そして―――その身を屈めた運動による腰と足の力は腕に伝えられ!突き出される拳! 当たる寸前にその拳を柔らかく開き!粘りつくような掌を目標に捻り込む!狙いは先生の鳩尾! ドン! 破壊的な音が私の腕を通じて脳に聞こえた!カ・イ・カ・ン! 強烈な一撃をくらった先生は息を吐いてその場に崩れ落―――駄目押しぃぃ! 捻りを加えた足が顎を真上に蹴り飛ばす、上体が浮いて無防備な体を一瞬硬直させた。 私はその場でくるりと回ると、持っている杖を胴体に突き付け!即座に魔法を使い爆発を起こす! ドゴォォォン! 零距離で起きた爆発をまともにくらい、吹っ飛ばされて壁にめり込む先生。白目を向いて気絶してる。んん?泡まで吹いてる。軟いわね と言うか、ほぼ至近距離で爆発起こしたから私も煤塗れになっちゃった。後でペットショップに洗濯させないといけないわね なんて事を私が考えていると。 「ヴァリエール!!!!」 叫び声が聞こえた方向を見ると新手の先生の姿が!敵が増えた! モタモタしてられないわ! 「それぇ!」 倒した敵の杖を拾って思いきり投げ付ける。自分でも100点満点と思う程に洗練された投球フォームだ。 メイジにとって杖は命の次に大事な物。魔法学院の先生方がそれを知らないわけがない。 凄いスピードで一直線に飛ぶ凶器となった杖を、他人の物だからと言って魔法で撃ち落すわけにもいかず、私の目論見通りにしゃがんで回避する。 それを見てほくそ笑む私。その判断は、この戦いにおいて致命傷となる隙を作り出すわよ! 「!?」 飛ぶ杖に続いて突進していた私に気付いた先生が慌てた動作で杖を振り上げる。 だけど遅い遅い。気付くのが数秒遅いわね! ゴガッ! 私の頭突きが先生の顔面にクリーンヒット!噴水のように鼻血を噴出した!・・・うひゃっ!鼻血が頭にかかった!許せない! 反射的に顔を押さえる先生に、私の渾身の体当りが決まる。 倒れた先生の上に馬乗りになる私。俗に言うマウントポジションってやつだ。 鼻を押さえる先生の顔が恐怖に歪む。私が何をするか理解したようだ・・・・・・それも哀れに思うほど遅いんだけどね。 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!! 顔面に拳の連打をおみまいする。先生は狂ったように暴れるが、重心をピンポイントで押える私から逃れる事は出来ない。 それから十数秒後、ピクリとも動かなくなった先生の体の上から立ち上がる私。 目の端に又人影が見えた。敵ね!?敵は皆殺しの全殺しでズタズタのグチャグチャのミンチの刑よ!あははははははははは! 振り向くと、腰が抜けたような格好で後退りする女教師の姿を発見。補足して全速突進! 私が走ってくるに気付いたのか、泣きそうな顔が更に泣きそうになって持っている杖を振り、火を飛ばす。 「遅い!」 走りを止めずに首を曲げてその攻撃を回避。遅い遅い遅すぎる!集中している私にはスローすぎて欠伸が出るわよ! 絶望的な表情でそれを見た先生は悲鳴を上げながら、再度杖を振り巨大な火球を発射した。 それは『火』と『火』を使った攻撃呪文『フレイム・ボール』!小型の太陽が私を襲う! その火球が、体に当たって私を炭にするだろう一瞬前――――床を蹴り、壁を蹴って天井に届くほど高く跳躍しスーパーにビューティフルな形で回避。 それにしても『フレイム・ボール』なんて・・・・・・・生徒に向けて使うものじゃないわよ!危ないわね!これはお仕置きね! 「天誅!」 そのまま天井を蹴った勢いと重力加速を加えた私の蹴りが女教師の腹に決まった。 まあ、肋骨が粉砕して、内臓が破裂しかける程度に手加減しちゃったけど。私も甘いわね 甘美な勝利の感覚が脳に伝わり、知らず知らずの内に顔の表情が笑みを形作る。 「私が最強よぉぉぉぉぉっ!!!!」 ガッツポーズをとって叫び声を上げようとした所で、何かが鳴る音が聞こえて・・・・・・ 私の・・・・・・意識は・・・闇に落ちて・・行った・・・・・・zzzzz 倒れたルイズを見てやっと安心するコルベール、その手には秘宝の一つである『眠りの鐘』が。 コルベールは滅茶苦茶になった廊下や、打倒された教師達を見回すと、魂も吐き出すかのような溜息を突いた。頭髪が更に少なくなった。 この後、ちょっとばかり洒落にならない額の弁償金をルイズが払う事となったのは、物語とは更に関係無い話である。
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